杉浦 圭祐のホームページ

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研究内容
◯Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法を用いた固体小天体衝突を扱う計算手法の開発
 弾性体力学とは岩石などの固体を表すためのベースとなる力学である. 弾性体力学では固体の歪みによって生じる内部応力を記述することによって, 固体の振る舞いを計算することができる. ここに塑性変形モデルやひびモデルなどの様々なモデルを導入することで, 小天体衝突の数値計算などの様々なダイナミクスに応用することができる.
 弾性体力学の数値計算手法の一つに, Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法という流体力学の数値計算方法を弾性体に応用したものがある. SPH法は粒子を用いたラグランジュ的な手法であり, 弾性体素片にそったひびの履歴などを記述できるため, 衝突破壊問題に適している手法である. そこで私は固体小天体衝突に応用することを目的とし, 弾性体SPH法に岩石を表現する種々の効果を導入した数値計算コードを独自に開発した.

・ゴドノフSPH法を用いたTensile Instabilityの解決
 一般的に用いられている標準SPH法を用いた弾性体力学の問題点の一つにTensile Instabilityという数値不安定性がある. この不安定性は固体が引き伸ばされている状態を表す負の圧力の領域において, SPH粒子同士が非物理的にくっついてしまい塊を作ってしまうものである. 我々はゴドノフSPH法(Inutsuka 2002)と呼ばれる手法を用いてこのTensile Instabilityを非物理的な項を導入することなく, 自然な方法で解決した. ゴドノフSPH法の運動方程式は積分で表されているが, この積分を解析的に評価するために密度分布などを補間する必要があり, 補間方法にはいくつか種類がある. この各補間方法の安定性を線形安定性解析を用いて解析し, どのような条件で不安定になるか調べた. その結果, 圧力の符号と空間の次元に応じて適切な補間方法を選ぶことで, Tensile Instabilityを起こすことなく計算できるということが明らかになった(Sugiura and Inutsuka 2016). また開発した手法を用いて弾性体力学のテスト計算を行ったところ, Tensile Instabilityを解決して計算できることを示した(Sugiura and Inutsuka 2017).
→テスト計算(金属板の振動の計算)

・弾性体SPH法への破壊および摩擦モデルの実装
 前述したとおり, 岩石などの現実的な固体を表現するためには脆性破壊といった破壊の効果を導入する必要がある. そこで我々はBenz and Asphaug (1995)のひび割れモデルを実装し, 岩石天体の衝突破壊を表現できるようにした. 粉々になった岩石の振る舞いを計算する際には粉体間の摩擦が重要になってくるため, さらにJutzi (2015)の摩擦モデルを弾性体SPH法に実装した. Genda et al. (2012)などこれまでのジャイアント・インパクトの計算では, 火星サイズ以上の比較的大きな固体惑星では自己重力が卓越し固体の効果は効いてこないとし, 偏差応力テンソルなどを無視して計算を行っていた. そこで我々は弾性体ゴドノフSPH法に破壊の効果を導入した手法と, 流体ゴドノフSPH法との両方でジャイアント・インパクトの計算を行い, 固体の効果がHit-and-run collisionとMerging-collisionの境界の衝突速度に与える影響を評価した. その結果, 境界となる衝突速度は固体の効果によってわずか2%しか大きくならないことがわかった. 従ってよほど精度の良い計算を要求するのでなければ, 火星サイズの衝突計算には偏差応力テンソルや破壊のモデルなどの固体の効果は必要ないということを確かめることができた.
→衝突破壊計算の例
→テスト計算(崖崩れ実験との比較)


◯開発したコードを用いた小惑星衝突計算と衝突による小惑星形状形成過程の研究
探査機はやぶさが訪れた小惑星イトカワの細長い形状からわかるように, 小惑星は多様な形状をしている. 特に10 km以上の大きい小惑星の形状は主に小惑星同士の衝突で変化する. 惑星形成期の原始惑星系円盤内の力学的に冷たい環境では低速な衝突が, 現在の太陽系の環境では高速な衝突が主に起きるため, 様々な衝突で形成される小惑星形状を調べることで小惑星の形成時期にまで制限を与えられる可能性がある. 我々はSmoothed Particle Hydrodynamics (SPH) 法に基づいた計算コードを用いて小惑星同士の様々な衝突で形成される小惑星形状を調べた. 数値計算の結果, 質量が近い小惑星同士の低速な衝突では平たい形状を含む様々な形状が形成されるが (Sugiura et al. 2018), 高速で破壊的な衝突では主に丸い形状と頭が2つあるような形状しか形成されないことがわかった (Sugiura et al. 2020). つまり, 大きく平たい小惑星は惑星形成期での低速な衝突で形成され, その形状を現在まで保持している可能性が高い.
→低速度衝突の計算例
→高速度衝突の計算例